STORY家庭

vol.33 大病しないって決めてるの

ご主人、愛犬が逝き、いただいた命を大切に生き切ろうとするひろこさんの、これまでとこれからのSTORY。

「フランス料理を教えるセンス抜群の先生がいる」と噂に伺っていましたが、スクリーン越しでの初対面で、愛に溢れた優しい印象に射抜かれました。美味しい豪華ランチと居心地の良過ぎる空間で長居しながら、ご主人の介護で始まった新婚生活と死別、パニック障害を抱えた過去を伺うことになりました。

玄関のゲートを開けると思わず「うわ〜」とため息が漏れる前庭を抜け、優しく包み込むような空気が充満する室内へ。子育てに忙しい女性たちが日常から離れ、ここでの時間を楽しみたいと通うことに納得です。料理教室を運営して14年になるひろこさんのご自宅へお邪魔しました。

19年前に亡くしたご主人と過ごした家を、料理教室に適した空間へとリノベーションしたのが約2年前。ひろこさんの身長に合わせた標準より10センチ低いキッチンのベンチトップは、「これでは売れなくなる」と言う建築士の反対を押し切って実現したもの。3年前には愛犬も逝き、自分の残りの人生を住みたいと思う家で、頂いた命を最後まで大切に生き切ろう、と思ったと語ります。

ジムで体を動かしながら「涙する」というひろこさん。辛いんじゃなくて(笑) 「元気でこんな時間を持てていること、こんなに好きなことをやらせてもらえるなんて、ありがたい」と。ダイニングテーブルの脇に置かれた写真の中のご主人に向かい、微笑みます。「大病しないって決めてるの」と笑うひろこさんは、かつて亡き夫に「早く迎えに来て」と願った日々を乗り越え、今があります。

約20年前のひろこさんを襲ったのは、結婚式の2週間後に発覚したご主人の脳腫瘍と余命宣告。どうして私たちにこんなことが起こるのか、という混乱の中、おしゃべり好きなご主人が言語を失い、光がてんかんをおこす、と真っ暗な中で暮らした自宅療養の1年2ヶ月。ご主人を看取ってすぐに家の中はガランとし、外の世界はいつもの青い空と笑顔の人々。一番大切な人を失ったのに、何ひとつ変わらない世の中を不思議に感じたと振り返ります。

その後、もともとあったパニック障害が悪化し、家に引きこもるようになったひろこさんにとって生きる支えとなったのが愛犬でした。1日2回の散歩や、犬を通じた仲間との時間に助けられながら、これからは自分の人生を生きていかなければ、と思えるようになるまで3年。ひろこさんはこう話します。「幼い頃から好きだった料理にまつわることをしていきたい。次に周りの人が健康を害した時に役に立てるように、健康や栄養に関しての知識も得たいと思ったんです。」

そこから少しずつ外出をはじめ、ジムでのヨガやカレッジで栄養学を勉強したのち、フランス料理の名門ル・コルドン・ブルー・シドニー校の門を叩きます。薬を飲みながら通学し、若い留学生たちと共に体力勝負な世界でクタクタになる日々はとても楽しかった、と懐かしそうな目をするひろこさん。

卒業後まもなく教室を開くと、カラフルで美味しい料理そのものだけでなく、来豪間もない人たちにとっての生活相談や交流の場として人気の教室に。これには、前職のツアーガイドの経験が生きました。1980年代のシドニーに、バブル期を迎えていた日本からの観光客をアテンド。どんな質問にも対応できるよう勉強し続けた14年間だったそう。料理やレシピのことを考えて頭がパンパンになるほど、ひとつのことへ猛進するのは今も健在。そんな時は、分からない言葉で非現実なストーリーが繰り広げられる韓国ドラマで、別世界の中、頭が空っぽになるのを楽しむそう。

「教室で料理の手順を間違えることはしょっちゅう」と笑い、一緒にいる人の心を緩ませてしまうひろこさんとの話は尽きず、家路へ着こうと玄関のドアを開けたら、そこには輝く満月が。空を見上げた私にかけられた言葉は、「今が幸せって思わない限りは、未来も幸せにはなっていかない。もっと大きな夢持とうよー!」。ここへ通う女性たちが持って帰るものは、何かへのちょっとしたきっかけなのかも知れません。


取材協力:ブリモひろこさん(Hiroko Brimo)
撮影場所:Sydney
函館生まれ。シドニーの自宅にて料理教室「ル・シエル」主宰。フランス料理を中心にヨーロッパや地中海の家庭料理及びモダンオーストラリアン料理等を紹介。
https://ameblo.jp/lecielsydney

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オーストラリア・シドニー在住ブランドスタイリスト。グローバルに活躍する起業家のパーソナルブランディングを専門とする。書いた記事がキッカケで人生が飛躍する人たちが続出し、写真と文章で人を輝かせることが天職だと気づく。STORYは、Kimikoがこれまで出会った人生を楽しむ人たちを取材するライフワーク。
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